噂のあいつ 「限り」


は凄いと思う。

9年もの長い間、男の子として生活し続け、未だボロを出さずにいるどころか
本物の男の子以上に運動だってこなす。

誰から見ても格好良くて、それでいて親しみが持てる

そんなだからこそ僕は愛おしくて(←何だか、こう書くと恥ずかしいね)、ずっと側にいたいと思っている。

でも時々不安になることがあるんだ。

はいつまでこの状態を続けてられるんだろうかと。



「ほんっと、お前って変わってるよなー。」
「どうして?」

昼休みの屋上、壁にもたれて座りながら僕はに問い返した。

「だってよー、わざわざこんなコソコソしてまで俺と付き合おうという気になったってのがなー。」
「だって…」

僕は腕の中のの頭をそっと撫ぜる。

「好きになったんだもの、どうしようもないよ。」
「そーかよ。って、頭なでなですんじゃねー。」

俺は愛玩動物じゃねぇんだからな、とは僕の手をどける。

「ねぇ、」

僕は空を見上げながら呟いた。

「今日、校内ランキング戦だね。」
「それがどーしたよ。」
はレギュラー入りするつもりなの?」
「あったりめーよ!そーでなくてどーする。特に国光をぶっ倒してレギュラー入りすることが望ましいな!」

望ましいって…生徒手帳の校則欄じゃあるまいし。

「俺はまだまだいけるぜ。レギュラーになって大会で勝ちまくって、あ、できればダブルス希望だけどな、
全国大会まで突っ走ってやるんだ!!」
「そりゃいいね。」

の台詞は頼もしくて、聞いているこっちも何だか気が高ぶってくる。

「僕もウカウカしてられないや。」
「おうよ、お前が前の借り、返すの待ってるぜ。」
「言うね、フフッ。」

僕はをクイッと抱きなおした。

「お、おい、周助…」
「いいじゃない、誰も見てないよ。」

僕は言ってそっとの頬を撫でた。

照れているんだろう、淡い桃色になっているその頬はやっぱり普段のとは大違いで
あまりにも可愛くて仕方がなかった。

「一緒に行こうね、全国大会。」
「うん。」

僕が言うと、は肯いた。


「あー、不二ー、ー!どこに行ってたのさぁ?!」

ひとしきり2人の時間を過ごして教室に戻ってきたら、いきなりブーたれた英二の顔を拝む羽目になった。

「2人が置いてくから俺、つまんなかったんだぞー。」

あのね、英二、そんなことばっか言ってるから周りに『子供』だって言われるんだよ?
(いや、僕だって子供なのはわかってるけど)

「まあまあ、そう言わずに。」

僕は適当に言って英二をなだめる。

僕だって普段なかなかと2人の時間が過ごせないんだから、いいじゃない。

とはさすがに言えないからね。

「ま、別にいいけどさっ。でも最近、不二とよく2人で消えてない?」

英二の台詞にちょっとギクッとなってみたり。

で、慌てず騒がず応えたのはだった。

「そりゃ英二、俺と不二はできてるからだ。」

え?
え?
えーっ?

「エーーーーーーーーーーーーっ?!?!?!?!」

僕が口を開くよりも先に叫んだのは英二だった。

「にゃにそれー?!マジーっ?!?!?!」

ちなみに僕も同じように叫びたい心境。
っ、バラしてどうするの!?

心臓がどうかなるんじゃないかという気がした瞬間、

ベシッ

の平手が英二の頭を直撃した。

「んなわけねぇだろっ!!」

言っては英二の頬をシビビビッと引っ張る。

「ったく、てめぇら東京人ときたら何でもかんでも本気に取りやがって!俺と周助が出来てるわけねーだろ、
何でこの俺がそんなことして世間様を楽しませてやらなきゃなんねーってんだ!!他が俺を楽しませるのが筋ってもんだろっ!!」
「言ってることが滅茶苦茶だにゃーっ!!」
「やかましーっ、てめーもギャグキャラなら俺のボケを感知してケリを入れて突っ込むくらいの根性を見せんかいっ!!」
「にゃにそれ、意味不明ーっ!!第一、俺はギャグキャラじゃないもんねー!!」
「馬鹿野郎ーっ、今それ聞いた誰もが納得しねぇぞ!!」

…もう、ったら。
僕の気持ちも知らないで。

危うく心音が止まっちゃうかと思ったよ。

でも多分、抗議したところで『下手に隠すよかいーだろが。』とか何とか言って流しちゃうんだろうな…。

のそういうとこも嫌いじゃないけど、こういう時困るかも。

ところでそろそろ…

「やいこら、周助。」

ほら、来た。

がくるっと顔を僕の方に向ける。

「てめぇは何度言ったらわかるんだ、こういう時は3人目が突っ込んで止めるもんだって言ってんだろーが。」
「ああ、御免御免。どうも、まだ慣れなくてね。」

僕は笑って流す。
はため息をついた。

「いかんな、お前らは国光の頑固の影響が強すぎると見た。」

何度も言っていることだけど…手塚も大変だね。

、そんなことばかり言ってると…」

僕はニッコリと笑ってをじっと見つめる。

「部活の時にの鞄の中に入ってるもののこと、手塚に言いつけちゃうよ?」

瞬間、の英二の頬を引っ張っていた手が、ポロリ、と力なく落ちた。



そんな冗談は置いといて、今日も部活の時間がやってくる。
でも、今日は空気がいつもと違う。

だって今日は校内ランキング戦の日だから。

僕とと英二はいつものように連れ立って、でもいつもよりも厳粛な感じで部室に向かった。

「負けらんない。」

歩いている最中、英二がボソッと呟いた。

がいるんなら、余計に。」
「俺だって。」

が応える。

「元・撃鉄のオレンジ線レギュラーのプライドが掛かってる。誰にも負けるつもりはさらさねぇ。」

僕は何も言わずに、そんなの引き締まった表情にこっそりと見とれていた。

勿論、僕とて相手でも手加減するつもりは全くないし、負けるつもりも全くない。
(一遍負けているから余計にね)

でも、惚れた弱みというか何と言うかよくわからないけどこういう真剣な表情のを見るとときめいてしまう上、
ついでにが青学のレギュラージャージを着たらどんな感じかな、なんてことまで考えてしまう。
…最早、重症かもしれない。

3人で部室に入ると、案の定そこには凄い空気がみなぎっていた。

かがんで靴紐を結んでいる海堂の背中からも、ラケットのガットをギチギチと弄っている桃の指先からも、
ノートに何やら書き付けている乾のシャーペンからも、キャップを直している越前の何食わぬ顔からも。

所謂闘気ってやつなのかな、何だかうっかり触ったら肌が切れそうなそんな感じ。

ふと、隣に目を移せばいつのまにやら鞄から自分のテニスウェア
(他に丁度いいのを持っていないから、という理由では今だに前の学校のレギュラーウェアを使っていた)
を引っ張り出しているの全身からも同じ空気が漂っていた。

で、きっと僕も同じような空気を漂わせているわけで。

「借りは返すよ、。」

僕は呟いた。

「それでなくちゃ困るのは俺だ。」

はニヤリとした。

それにドキリとした僕は完全に病気だと思う。


言うまでもなく手塚が校内ランキング戦を宣言した瞬間、参加資格のある者は全員色めき立った。

いつもどおり、レギュラーに残るつもりでいる僕や手塚達。
常勝者を倒して上を狙っているや他の2,3年生達。

月に一度、必ずやってくる不思議な瞬間。

「それでは、これより校内ランキング戦を行う!!」
「うっしゃ、行くぜ!!」

後ろでが気合を入れたのが聞こえた。



底が知れない。

僕はよく周りにそう言われる。

僕の他にもそう言われる人はいる。

例えば、手塚や越前。
他の皆だってまだまだこれからどうなっていくかわからない連中ばかりだ。

でも、僕は思う。
次に底が知れない、と言われるのはだろう、と。

校内ランキング戦はいつも白熱するけど、今月はが参戦したせいでそれがひとしおだった。

はやはり凄かった。
自分のブロックで当たった相手を次々と、薙ぎ倒していっている。

元・撃鉄中オレンジ線レギュラーのプライドが掛かっているから。

本人はそう言ってたけど、多分それだけじゃないんだろう。
それはそのプレイスタイルが物語っている。

従兄弟のそれとは全く違う、どちらかと言えば越前に近い攻撃的なスタイル、そして相手の実力を問わず間違っても手心を加えない。
まるで噛み付いていくかのように、本気全開、手抜きは一切なし。

俺はまだ止まってる場合じゃねーんだ。

動きの一つ一つがそう言っているのが、見ているとはっきりとわかる。

、すげぇ…」
「俺達じゃまるで相手にならねぇよ。」
「これであいつがレギュラー入りしたら」
「ああ、シングルスだけじゃねえ、ダブルスも大幅強化されるぜ。」

周囲の呟きが耳に入る。

本当凄いよ、は。
来て日も浅いのにこれだけ皆の注意を惹きつける力があるんだから。

だから…僕は君が好きだ。
そして、同時に君と戦いたい、と思う。

「おらぁぁぁっ!!」

の咆哮が響き、強烈なスマッシュがコートに穴を穿つのが見えた。

「おいおいっ、越前相手に!!」
「マジかよ。」
「ブレイクしたぜぇ…」

次々と沸き起こる賞賛の声は何故か、僕をも高揚させる。

次、が桃と対戦した後は僕がと戦うことになるな。
何としてでも、前の借りは返さないと、ね。

僕はかがんで靴紐を結びなおした。

…まさか、あんな異変が起こるとは、その時予想だにせず。


僕はその時、英二と対戦している最中だった。

隣のコートではと桃が火花を散らしている。

「いくぜぇっっ、桃!!」
「俺だって負けませんよ!!」

2人が吠えているのが、こっちにも聞こえていた。

ドォッ バシッ ゴッ

激しい戦いが繰り広げられているようだ。

とか言いつつ、僕だってウカウカしてられないんだけど。

「ふっじー、ボンヤリしてると行っちゃうぞ!!」
「!! そうはさせないよ。」

今は英二と対戦してるんだ、隣のコートに注意を向けている場合じゃない。

「きっくまっるビーム!!」
「っ!」
「んもうっ、やなとこついてくるにゃあっ!!」
「クスッ、そりゃそうでないとね。」

僕は英二の放ってきた球を返しながら呟く。

「おらおらおらぁーっ、くらえーっ!!」
「まだまだっスよ、さん!!」

も絶好調みたいだね。
でも、正体を知っている僕としてはあの言葉遣いはちょっとね。
せっかく可愛いのが台無しだ。

「行くよ、英二!」
「ほいほーい、どっからでもおっけーだもんねっ!!かかってこーい!!」
「おおおおおおお!!ジャックナイフ!!」
「へへっ、俺がチビだからってなめんなよ!」

多分、フェンス越しに見ていた誰もがその次の瞬間に起こったことを予想できていなかったと思う。

勿論、コートの中で対戦中だった僕は言うまでもなく。

ゴォッ

その時僕に聞こえたのは、空気の凄い唸りと
ギャリギャリという球がガットを擦っている音、そして…

「ううっ…あっ!!」

がかすかに漏らした呻き声だった。

…?」

僕は思わず、試合中によそ見をするという明らかに常識はずれの行動に出てしまった。
でも、誰からもお咎めはなかった。

次の瞬間、パァンとの手からラケットがすっ飛ぶのをその場にいた全員が目撃していたから。

先輩…」

誰かが呟いた。

「嘘だろ、さんがパワー負けするなんて。」
「だ、だけど。」

の手を離れたラケットは重い音を立てて、のいたコートのベースラインよりも
ずっと遠くに着地した。

相手がだからこそ、だろう。
周りの空気が凍りつき、全員が沈黙に支配された。

は…そう、は…

コートの真ん中で、ラケットを飛ばされた片手を呆然と見つめて立ち尽くしていた。

「手塚、これは…」

何事か、とやってきていた手塚に僕は言った。

手塚の表情は特に動いていなかったけど、それは僕の予想が当たっていることを示していた。

さん?」

桃がネットの向こうからに声をかける。

でも、は答えなかった。
答えないかわりに、はダッと駆け出す。

!」
「不二、止めてくれるな。」

引き止めようとする僕に、手塚は言った。

「そっとしてやってくれ…」
「手塚…」

言っている間には呆然とする一同を尻目にガシャンとコートを飛び出していってしまった。

そのまま、は部活が終わっても戻ってこなかった。



「手塚、はやっぱり…」

部室で着替えながら、僕は手塚に問うた。
辺りには他に人はいない。

手塚は目を伏せるだけ。

僕は脱いだジャージをとりあえずロッカーに放り込むと、言った。

「限界、なんだね。」
「ああ、そうだ。」

かすかな声で手塚は答える。

「無理もない。あの体で何年も男子の間でやってきたんだ。今まで何ともなかったのが不思議なくらいだ。」

冷静に言いながらも手塚の顔色が悪く見えるのは、僕の気のせいじゃないだろう。

「意地悪だね、神様も。何年もに猶予をくれてやっておいて…」

僕が言うと手塚はジャージを畳む手を止めて、ついっと視線を部室の天井にやった。

「不自然なことをすれば、自ずと限りは来る。いずれはこうなるはずだった。それがたまたま今日訪れた、それだけのことだ。」
「それでもやっぱり、」

僕はテニスバッグのジッパーを開けていた手を途中で止めた。

「切ないね。」

手塚は何とも言わなかった。


手塚と別れて部室を出た後、僕は飛び出したきりのを探し回った。

だって、こんな時に僕がの側にいてやらないでどうする?

でも、困ったことに僕の愛する人の姿はどこにもない。
体育館の裏、コートの近くの茂み、屋上…の昼寝スポットはことごとく探したのに。

携帯にも電話をかけたけど、電波の届かないところにいるか電源を切っているためかかりません、の
ガイダンスが流れてくるだけで応答がない。

もしかして家に帰ってるのもしれない。

僕は思って学校を出ると走っての家に向かった。

「ハァハァ…」

息を切らせながら、の家の門に辿り着いた僕はインターホンのボタンを押す。

ピンポーン

どこにでもある音が家の中で響いたのが聞こえた。
でも、肝心のは出てこない。

のことだから、眠っているのかと思って僕はもう一度ボタンを押した。
それでもは出てこない。

とうとう僕は、自分の携帯電話からの家の電話に直接かけた。
聞こえてくる音からして電話は掛かっているようだった。
だけど、やっぱりは姿を見せなかった。

まさか、家にも帰っていないのか?
だったらどこに行ったんだろう。

手塚の家か、あるいはが撃鉄中の時の後輩が不動峰にいるらしいからその子の家か。

「誰も出ぇへんで。」

僕がしばらく、誰も出ない家に電話をかけたままその場に立ち尽くしていると、ふいに声をかけられた。

「忍足君…」

僕は携帯電話を閉じながら呟いた。
また何だって彼はこんな図ったみたいなタイミングで登場するんだろう。

「どうして。」
「多分、ここに来てると思てな。ま、ほとんど勘みたいなもんやけど。」

忍足君は言って眼鏡を押し上げる。

「とりあえず、丁度見つかってよかったわ。」
「どういうこと?」
…今、俺んちにおるねん。」

僕は思わず目を見開いた。

「いきなり珍しくビービー泣きながら転がり込んできてな。どないしたんやってきいたら事情をまくしたてて、
今、泣き疲れて寝てるわ。」
「どうして君のところに…。僕のところに来てくれれば良かったのに。」

僕は何だかよろしくない気分になって、そう呟いた。

「お前に泣いてるとこ見せたないんやと。そんなんしたらお前まで泣かしてまうからって。」
「僕とはそんな気を回さなきゃいけない関係じゃないのに…ったら。」
「そう言うたんな、それだけ愛されてるってことや。」

僕は釈然としない気分で、そうなのかな、と口の中でモゴモゴと言った。

「それはともかくやな、」

忍足君はやっと本題に入った、と息をつく。

、悪いけど引き取ってくれんか?俺も人様の彼女、家に留め置く趣味はあらへんからな。」
「いいのかな。」
「お前は阿呆か。」

言ったら、並みの突込みを入れられてしまった。

「俺があいつを預かったってしゃーないやろ。大体、愛しのちゃんに浮気してるって誤解されたらどないしてくれるねん!!」
「もう、誤解されてるんじゃないの?」

忍足君は失敬なやっちゃな、とブツブツとぼやいた。


で、僕は忍足君についていって彼の家までお邪魔した。

は忍足君の部屋のベッドでぐっすりと眠っていた。

余程泣きじゃくったのだろう、その寝顔は可愛らしいけど同時に痛々しくて僕もちょっと泣きそうになった。

「起こそか?」

忍足君は言ったけど、僕は断った。

「起こすに忍びないよ。」
「せやけど、どないして連れてくねん。お姫様抱っこなんかしてみぃな、途中で起きた時殺されるで。」

僕は直接それには答えず、自分のテニスバッグを下ろすと忍足君のベッドからを抱き上げて
やや強引に(何せ本人が寝てるから)自分の背に負った。

「あー、なるほどな。」
「忍足君、悪いけど僕とのバッグ、お願いできるかな。」
「ええで。」

そうして僕はを背負って暗い夜道を忍足君と一緒に歩いた。

「ホンマ、信じられんわ。」

忍足君がポツリ、と呟いた。

「あのいつでも自信全開のが、こないなことになるなんてな。」
「僕も、そう思う。」
「こない言うのもなんやけど、俺の中ではが今までで最強って感じやったしな。」
「そうだね。」

僕が言うと、それっきり会話はなくなった。

結局、僕はを自分の家に運んだ。

の家に帰そうにも、本人が寝ている状態で家に入れないし、よしんば入れたとしても
とてもじゃないがあの誰もいない家に1人で置いておく気には到底なれない。

姉さんや母さんには(もし帰っているなら裕太にも)事情を話せばわかってくれるだろう。

「ほな、俺は行くわ。」

僕んちの門越しに忍足君は言った。

「有り難う、手間をかけたね。」
「ええがな、どうせ俺にとっても他人事やないしな。」
「本当、恩に着るよ。」

僕が言うと忍足君はほな、と手を振って歩き出す。

「あ、そーや。」

1,2歩歩いたところで彼はふと立ち止まってこっちを振り返った。

「不二、マジで頼んだで。お前しかおらんからな。」

その顔はまるで公式戦の時みたいに真剣そのものだった。

「大丈夫だよ。」

僕は請合った。

「僕だって伊達や酔狂でに惚れたんじゃないんだから。」

忍足君は安心したのか、僕が言い終わると何も言わずに去っていった。



姉さんや母さんに事情を話して、を自分の部屋のベッドに寝かせてから僕はほとんどずっとその傍らに座っていた。

何だか面倒くさくて明かりをつけていない部屋の中は当然暗闇に支配されていて、
窓から入る街灯の光だけが部屋をわずかに明るくしている。

その明かりに照らされて眠るは、とても綺麗でまるで硝子か瀬戸物みたいな壊れ物みたいにみえた。

…」

僕は呟いてそっとその色の薄い髪をなぜる。

ちょっとだけ、の体がピクっとなった気がした。

「ん…」

口から声が漏れる。
そろそろ意識が戻り始めているのか。

そのまま僕はの様子を見る。

は体を動物みたいに丸めたまま、目を擦りだす。

「侑士…?」

あ、今ちょっとムカついたかも。

「悪いけど、僕は忍足君じゃないよ。」
「え…?」

は大分寝ぼけているのか、状況が把握できていないらしい。

「周助?」

ちょっと声がはっきりし始めた。

しばしの沈黙。

「なっ、何で!!」

とうとう目が覚めたのか、はガバッと身を起こした。

「やあ、お目覚めかい?」
「しゅしゅしゅ、しゅーすけ!!何で??ってか、俺今侑士んちじゃないならどこにいるんだ?!」
「僕んち。」
「あーそーって、しれっとした顔で言うんじゃねー!!」

クスクスクス

「大分調子、戻ったみたいだね。」
「あ…」

はハッとしたのか、視線を下に落とす。
僕は今までの事情をに話した。

「そっか。悪いな。」
「いいよ。それよりどっちかっていうと、先に僕のところじゃなくて忍足君の所に行ったことを謝ってほしいな。」
「うぅ、マジで御免なさい。」
「もう、怒ってないけどね。」

僕は言ってをそっと抱き寄せた。

「周助…」
「大丈夫だよ、。」

ギュッと腕に力を込めて僕は囁いた。

「何があったって僕は君が好き。だから、ずっと側にいるよ。」
「周助…あたし…あたし…」
「うん、なぁに?」

うあああああああああああああああああああああ

薄暗い部屋にの泣き声がこだまする。

「何で、何で今なんよっ!もうちょっと、あともうちょっとやのに…!!今更限界なんてっ!!」
…」
「でも、もうダメなの!今日桃とやってわかったのっ!ちょっとでも強い球食らったら肩が痛いのっ
受けきれないのっ!!これ以上やったら…あたし…」

自分の服がぬれてきたのを感じて、僕はまたを抱く腕に力を加える。

「周助。」
「ん?」
「お願いだから、側にいて…1人でいたら潰されちゃう…」
「言ったでしょ、大丈夫。ずっと側にいるよ。」

僕が言うと、はうんと呟いて僕にすがりついた。

今までからは見当がつかないくらい切なそうに。

To be continued.


作者の後書き(戯言とも言う)

皆様、お待たせしました。
やっとここまでこぎつけましたよ。

こんな調子ですが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

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噂のあいつ 〜幻の最強レギュラー〜 目次へ戻る